過去の展覧会

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2016年10月29日(土) - 11月26日(土)

永井英男 Hideo Nagai:ENDORPHIN エンドルフィン
  • Opening Talk 2016.10.29 sat 18:00 - 無料  ※ 終了致しました
    Talk:永井英男 × 菅谷富夫氏 (大阪新美術館建設準備室 研究主幹)


  • 関連イベント 音楽 Live "ENDORPHIN (エンドルフィン)"
    2016.11.05 sat open19:00 - / start 19:30 -  ¥2,000.-  ※ 終了致しました
    出演:Sarry (821 & Fujiyuki), .es (ドットエス: 橋本孝之 & sara)
    → イベント詳細  → facebookイベントページ

     

限りない制作意欲から生みだされる永井的曼荼羅 −
永井英男、新たな作品イメージで深化を発揮!


ユーモアとone and onlyな表現で人の心をとらえ続けたこの15年
プロレスラーを模した5m近い巨大彫刻が、重力の苦痛に耐えながら強くあろうとする精神力をユーモアを交えて表現した「BABA PROJECT」(2001年/右上図版参照)。その圧倒的な存在感と見る人の心を開くユーモアのセンスで、現代美術の世界に留まらず広く一般にも強烈なインパクトを与えた永井英男。以降も大小さまざまな立体作品、またドローイングや映像作品を発表。そのワン・アンド・オンリーな表現で幅広い支持を獲得しています。

2012年、ギャラリーノマルでの初個展「painkiller...」では、それまでの作品制作の基軸「笑い(ユーモア)」の要素を踏まえながら、様々な感覚と精神・肉体との関係性をより深く掘り下げ、多様な素材を取り入れた新たなタイプの作品を発表。元あるイメージの切断・組み替えなどで、痛みとユーモアを感じさせる作品は、見る人に様々な感情・感覚を連想させ、以降の新たな展開を予感させる展覧会となりました。

「エンドルフィン」をテーマに、より深く人の心にえぐり込む!
4年振りとなる今回の個展では、構想の早い段階から「エンドルフィン(※)」がテーマとして上げられました。脳内モルヒネとも呼ばれるエンドルフィンは、楽しい想像をする時や自己実現などの際に放出され、鎮痛、脳の活性や精神的ストレスの解消に効果があると言われます。

永井は2006年の不慮の交通事故後、自身の経験から先入観や固定概念を見つめ直す新たな可能性を探求し続け、制作を行うことが出来ない期間に募った作品づくりへの強い想いは、膨大な数の構想として蓄積されてきました。今回の展示では、永井が新たな構想を実現化する過程で高まるエンドルフィンの効果が、過剰なまでのエネルギーとなって作品に昇華されます。

今展では永井にとって身近な素材である松葉杖からヒントを得た作品が、空間を埋め尽くすインスタレーションとして眼前に立ち現れます。そこでは日常と非日常、造形と機能といった言葉だけでは捉えられない、感情に突き刺さる何かを感じ取っていただけるはずです。

(※) エンドルフィン: 鎮痛・鎮静とともに多幸感をもたらすとされる脳内神経伝達物質

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作家コメント
人間の体内で分泌される神経伝達物質で脳内モルヒネと呼ばれるEndorphin。
凝縮と解放を示した石群に突き刺さった松葉杖 は重力を背負った一つのEndorphinであり、集合体となったエネルギーが噴出している彫刻として存在する。
視覚と共に、燻された杖の仄かな匂いは嗅覚からも緩やかに脳を刺激するであろう。
作用する物質。
見えるもの、見えない力の存在。
制作のための思考や行動、製作された作品すべてEndorphinの象徴として考える。

Endorphins called "a morphine-like substance" that are neurotransmitters secreted in the human body.
The crutch which is pierced into a stone that indicates condensation and liberation is an 'Endorphin' having the force of gravity, and it exists as a sculpture which spews assembled energy out.
The scent from smoked crutches bring a stimulatory effect slowly on the brain with visual sense.
Effective substance.
We become aware of the presence of visible and invisible things.
The consideration and action for creating, and the artwork that has been brought into existence are captured as the symbol of 'Endorphin'.


永井英男 Hideo Nagai


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永井英男-新たな『エンドルフィン』シリーズに挑む
菅谷富夫

永井英男というと、ジャイアント馬場をモティーフにした巨大な立体作品を思い浮かべる方も多いことと思う。彼のつくり出すジャイアント馬場やアブドラ・ザ・ブッチャーたちはいずれも無理な体勢でギリギリのところで耐えている姿をしている。巨大さゆえのユーモラスさと彼らの醸し出す緊張感が、これらの立体を単なるフィギュアではなく作品とさせていた。
 大型作品を次々に発表していた永井は2006年に交通事故に遭い、その後のリハビリ期間には思うような制作活動ができない時期もあったという。それでも2012年には個展を開催し、2015年には今回発表しているエンドルフィンシリーズの最初の作品となる松葉杖をモティーフにした作品を発表した。今回はその発展形となる。
 松葉杖は永井にとって最も身近な道具であると言っても過言ではない。しかしこの道具に別の意味を持たせた時、それは抽象性を帯び、今までとは違って見えてくる。これはBABA PROJECTのもつ一種の明快性とは正反対と言ってもよいであろう。しかしディシャンの「泉」とは違う。作品は松葉杖の用途とは離れてはいるが、今回のテーマでもある「エンドルフィン」は松葉杖から派生するイメージと結びついている。
 ここでもう一度BABA PROJECTの作品を思い出してほしい。ジャイアント馬場はギリギリの姿勢で耐えているが、エンドルフィンは身体的につらい時に放出されるホルモン物質である。人はつらくても痛くてもそれに耐えられるのはこの物質が、それを快感に変えるからである。耐えるジャイアント馬場にはエンドルフィン分泌ゆえに創作という行為も同じ過程を経るもので、エンドルフィンを媒介に松葉杖は身体的痛みと創作のエネルギーを象徴するものとなる。
 会場に屹立した松葉杖のひとつひとつは、やがて中央に吊り下げられた松葉杖の塊りとなり、その上部はエネルギーの噴出のように開いていく。今回はBABA PROJECTとは別のイメージの作品ではあるが、そこには彼が一貫して求めてきた負のイメージから反転しほとばしるエネルギーのダイナミズムが活き活きと提示されている。

菅谷富夫 Tomio Sugaya(大阪新美術館建設準備室 研究主幹)
1990年財団法人滋賀県陶芸の森学芸員。1992年大阪市立近代美術館建設準備室学芸員。2013年より現職。
近代デザイン、写真、現代美術の分野を担当する一方、新美術館整備のための取りまとめを行う。担当した主な展覧会は「美術都市・大阪の発見」、「早川良雄の時代」展など。著書に「都市デザインの手法」(共著)、「デザイン史を学ぶクリティカルワーズ」(共著)など