Living in Light

東影 智裕
Tomohiro Higashikage

2018.12.22(sat) - 2019.2.2(sat)
13:00 - 19:00 日曜・祝日休廊
Closed on Sunday and National Holiday





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後援:ポーランド広報文化センター
   日本ポーランド協会関西センター
   特定非営利活動法人フォーラム・ポーランド組織委員会

○ 初日トーク・イベント:2018.12.22 sat 17:00 - 無料
  トーク:東影智裕 x 不動美里 (姫路市立美術館 副館長)
  * 終了後、オープニング・パーティーを開催

○ 最終日 関連イベント:Closing Performance "Living in Light"
  2019.2.2 sat open 19:00 / start 19:30 -
  料金:前売 2,000円 / 当日 2,500円 (どちらも1drink付)
 Sound:.es (ドットエス: 橋本孝之 & sara)
  Art:東影智裕(現代美術家)

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静寂を包む光と、息づくいのち
東影智裕 ギャラリーノマルでの初個展開催

ウサギやウシといった動物の頭部をモチーフにした彫刻作品で知られる現代美術家 東影智裕。緻密な毛並みに覆われた精巧な作品群は一見すると写実的ですが、自身の記憶をたぐり寄せて形成される姿形はどこか不思議な違和感と余韻を残します。“生と死”を根幹のテーマに持つ東影の作品は、相反する要素の境界を曖昧なものにしながらも毅然たる存在感を放ち、リアリティとイマジネーションを共存させたまま静かに空間に佇みます。
近年では顔の一部分をかろうじて残すフォルムや緩やかにうねる表皮など、生命の気配を残しながら繁殖する毛並みそのものに注目した、より抽象的なアプローチを試みています。

ポーランド滞在を経て新たな境地へ − 意欲的な新作を発表

第27回五島記念文化賞を受賞した東影は、海外研修として2017年初春よりポーランドの古都クラクフに1年間滞在。クラクフでの暮らしで東影が最も印象に残ったのは、歴史ある街並みに溢れる光と影の美しさだったと言います。
帰国後初の新作展となる今展「Living in Light」では、プロジェクターでギャラリー空間に光を投影。穏やかな空気感を感じさせるインスタレーションとして作品を展示いたします。
樹脂で成形しアクリルで彩色した彫刻に加え、パネルに樹脂を覆わせる平面作品、小品のドローイングなど、多様な表現で展開される新作を静謐な空間の中でご覧いただきます。

展覧会初日となる12/22(土)17時からは、東影をよく知る姫路市立美術館 副館長の不動美里氏を招きトークイベントも開催。
東影智裕のギャラリーノマルでの初個展、是非ともご高覧下さいませ。

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作家コメント

五島記念文化財団の助成を受け、3月末までポーランドの古都クラクフで一年間滞在。その生活のなかでひときわ印象に残ったことが、日本での生活では感じることのなかった光の陰影です。差し込むような強い光から穏やかな日の光、中世から残る建物の計算された採光、そのどれもが美しく、今まで気にも止めていなかった自然の陰影にとても興味を惹かれるようになり、美しい街並みのクラクフから帰国するのがとても名残惜しかったのですが、日本に戻り、今まで何度も見ていたはずなのに気にも止めていなかった、山並み、山間の道路、道端の小さな祠など、緑豊かな景色や湿度を感じる光がとても美しく目に映り、今まで何を見て暮らし制作していたのだろうと感じます。視点の変化した目で自分自身の内面、作品と向き合い、新たに得た感覚を咀嚼し次へと向かう、木漏れ日や薄光の中に何かを感じる静かで落ち着いた時間を作りたい。

東影智裕 Tomohiro Higashikage


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Living in Light 展に寄せて
不動美里

美術家、東影智裕が一年間の沈黙を破って新たな境地を開示した個展「Living in Light」ーーそこにあるのは従来通り東影の超絶技巧によって緻密に再現された生き物の表皮である。しかしこれらの新作はこれまでの彫刻とは似て非なる存在なのである。

かつて東影が彫刻として生み出してきたシリーズ「視界」の造形物は、ウサギらしきものの頭部、ウシらしきものの頭部、ウマ、ラクダ、イヌのように見える・・・生き物の頭部であった。否、それらは、種として正確な形態を呈するものではなく、様々な情報を編集して東影が脳内で作り出した創造物であった。東影によれば、それらは生きているのでもなく、死んでいるのでもないという。それら異形の塊は生命という観念を体現しようとするかのように、どこまでも重く厳然と在り、それ故に生じる引力によって観者を引き付けた。
2002年頃、版画、特に銅版画を表現の出発点とした東影は、早い時期に立体造形に関心をもち、樹脂とアクリル絵具による独特の手法で特異なリアリティを有する造形物を作り始めた。二次元から三次元へ、そして2010年頃より「場」や「音」、「時間」概念を取り入れ、茶室や廃屋で試みたインスタレーションには、ある種の能的幽玄を想起させるものがあった。

2018年3月末、1年間のポーランド滞在から帰国した東影は兵庫県姫路市の郷里に戻り、早速6月から制作を再開した。「これまでは自分の頭のなかに描いた創るべき対象に囚われていたけれど、すっかりふっきれて、ひたすら手に任せて生み出せた」と東影は語る。無我の境地で誕生したシリーズが「表層」である。
かつての「視界」シリーズでの東影は、自身のコンセプトを具現化するために作品の躯体となるベースの成形に膨大な時間を費やし、その上を樹脂の表皮で覆い、無垢の彫刻として完成させたが、今シリーズにおいては、存在の全てを表皮に収斂させることにより、宙空の彫刻とした。自らが観念的に生み出す先行するイメージを完全に捨てることによって、表現者として大いなる自由を獲得した東影は、更に無我の境地での即興性を追究し、シリーズ「ニュートラル」を手掛けた。そこに在るのは、確かに生き物であるが、もはや人知が及ぶ何物かの似姿ではない。この表層性と即興性を一層突き詰めた先にTrail Paintingがある。

日本の濃厚な伝統的アニミズムに根ざしてメガロポリス東京で思考を巡らし、極めて内向的な制作を続けてきた東影の中に、死生をさまよう極限状態を潜ってきた東欧の国、ポーランドで過ごした一年の光陰がもたらしたものーー。その一つの応えは、重力からの解放であると言えないか。

彷徨する美術家の魂が帰還した場「Living in Light」に浮遊する彫刻を歓迎したい。


不動美里 Misato Fudo / 姫路市立美術館 副館長
1961年京都市生まれ。1985年大阪大学文学部美学科(美術史専攻)卒業。1985年度スペイン政府給費生としてマドリード・コンプルテンセ大学にて絵画、彫刻を学ぶ。岐阜県現代陶芸美術館学芸員、金沢21世紀美術館学芸課長を経て、2013年より姫路市立美術館副館長。主な企画展:2003年「ロシア・アヴァンギャルドの陶芸:モダン・デザインの実験」(岐阜県現代陶芸美術館)、2005年「Alternative Paradise〜もうひとつの楽園」、2009年「愛についての100の物語」、2010年「Alternative Humanities〜新たなる精神のかたち:ヤン・ファーブル×舟越桂」(以上金沢21世紀美術館)他。共著に『芸術環境を育てるために』(角川学芸出版)がある。