大西伸明:投影と影取
Nobuaki Onishi : Projection / Extraction

大西 伸明
Nobuaki Onishi

2019.4.6(sat) - 2019.5.18(sat)
13:00 - 19:00 日曜・祝日休廊
Closed on Sunday and National Holiday





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助成:岡山県「I氏賞」事業

○ 初日トーク・イベント : 2019.4.6 sat 18:00 - 無料
  トーク:大西伸明 x 小林 公 (兵庫県立美術館 学芸員)
  * 終了後、オープニング・パーティーを開催

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独自の技法"Through Printing"に特化・深化した新作展 ー
大西伸明、素材とアプローチを変えて挑む2つの個展

オリジナル/複製という物事の捉え方、二元論的解釈の保留・再考を通して、本質を探り出すべく、"薄さ"や"反復"といった手法を用いて、精巧でありながら感覚的に違和感が残るような立体や平面作品を、優れた造形技術を駆使して制作する大西伸明。ときに意表を突いたユーモラスな表現のわずかな隙間から世界の多様性を現出させる稀有な作家として、国内外で積極的に発表を行なっています。

今春、素材とアプローチを変えて挑む関西2会場での2つの個展

今回、ギャラリーノマルでの4年振りとなる個展では、「シワ」「デカルコマニー」「レリーフ」をキーワードに、2012年に当画廊で開催した個展で初めて試みられた、撮影された映像を精密に再現しつつ、同時にそのイメージを解体していくことが可能な「スループリンティング(※)」という、自ら編み出した技法を駆使して、ノマルの工房刷り師との協働で新たな表現にチャレンジします。
また同時期、兵庫の"ギャラリーあしやシューレ"では今展と同タイトルでの個展を、こちらより1週間早い3月30日(土)からスタート。同展では「ヒビ」をテーマとした立体作品の展示を予定しています。

ノマル展での初日には、2011年に兵庫県立美術館で開催された個展「注目作家プログラム チャンネル2:大西伸明 UNTITLED」 での担当学芸員、小林公氏を招いて作家とのトークを開催。大西の思考や今展での試みをより深く知ることが出来る、またとない機会となります。

※ スループリンティング(Through Printing)
大西が新たに考案した、スクリーン印刷を応用した技法。
スキージによってインクをこし出す通常のスクリーン印刷とは異なり、インクを吹きつけることでイメージを定着させる。版と支持体の距離によって焦点をコントロールしながら、「集中と拡散」という相反する状態を一度につくり出すことが出来る。

[同時期開催の展覧会情報]
"大西伸明:投影と影取"
会場:ギャラリーあしやシューレ
会期:2019年3月30日(土) - 4月27日(土) 11:00 - 17:00, 日・月曜日休廊

▪トークイベント「平成・美術・これから」:2019年4月27日(土) start 15:00 - 16:00, 無料
 トーク:大西伸明 x 出原 均 (兵庫県立美術館 学芸員)
 *トーク終了後、ファイナルレセプションを開催


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投影/影取

モルタル仕上げの床や壁などを見ていると目に入ってくるヒビが気になっている。ジグザグであったり、いくらか分かれ道があったりしている。それらに少し隙間があると尚更気になってしまう。その隙間はネガ(虚)の空間を露出しているのだが、ヒビを起こしている床はそもそもネガポジという構造を持っている。それは例えば器の内側や部屋の内部空間等とは決定的に違っている。
ネガポジということを考えてみると、僕が慣れ親しんだ銅版画(凹版)はほぼネガポジの関係になっている。通常は絵の部分が凹んでいるけれど、仮に銅の板はピカピカの平たいものを用意して、紙をツルツルにしインクをのせて刷り取ると、そこには左右対称のデカルコマニーが現れる。そう考えるとインクは紙と板に挟み込まれたサンドイッチの具材のようなものであり、物体としての虚でもある。銅版画がさらにネガポジの関係に近づくにはインクの存在は実は異物でもある。
心臓の形は左右非対称である。また身体の中の位置も中心から少し外れた場所に存在し、体中の血液を受け止め去なす器のような構造を持っている。しかし何故か心臓が絵画の中で視覚化される際に、いつのまにやら左右対称の良く知られた記号の形になったようだ。 

我々の身体の中にはたくさんの二つの関係が存在するが、目や耳などを比べてみると左右非対称である。小さいころ顔の半分だけ鏡に写したりして遊んだ記憶からもかなり左右で違う。もちろん右手と左手の関係は完全な左右対称ではなくシワなど微妙に異なっている。そっと手と手を合わせてその隙間に出来た空間を眺めてみる。様々な違いもあるけれど、その祈る隙間からヒビ割れ、心臓、血管、大地の裂け目など、いま僕の頭の中ではそれらが地続きになっている。

大西伸明 Nobuaki Onishi


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大西伸明 投影と影取 Projection / Extraction
小林 公 / 兵庫県立美術館学芸員

当然のことながら、ふたつの展覧会名に現れる「影」が問題となる。プラトンの記述や絵画の起源の伝説など、影について語った故事来歴は数多い。プラトンは洞窟の比喩を用いて自身のイデア論を語る際、実体から一段階劣ったまやかしの例として洞窟の壁面に映る影について語った。プルタルコスは、戦場に赴く恋人の影の輪郭をなぞったのが絵画の始まりであったという伝説を『博物誌』に記した。より新しい所ではマルセル・デュシャンの思索においても影は重要な位置を占めている。実体とそれを縮減したものとしての影の系譜である。
さて、それでは大西伸明にとっての影とは何か。大西の作品を初期のものから思い返してみると、確かに「影」という言葉、あるいは概念との相性の良いことに気づく。「本物」そっくりに見える何かというよりも、実体をもった「それ」自体の影ととらえた方が、大西の作品を前にした時の違和感について正確に考えを進めていくことが出来そうだ。例えば石そっくりに見える作品は、石の影なのだ、という言い方をするのが良い。大西の作品の場合、問題とすべきなのは本物そっくりに「見える」ことではなく(作家の超絶技巧は「見所」ではない)、本物を指し示す本物でないもの(これこそを「影」と呼ぼう)が現前することの驚異である。
つまり、大西の作品とは大西の手が生み出すひとつひとつの物体ではなく、それを仲立ちとして存在が意識されはじめる、その影を投げかける「実体」が属するはずの、私たちが肉体をもって活動しているこの世界よりも高次元の世界を垣間見させる体験の方にあると言いたいのだ。
以上の前提に立ってGallery Nomartで発表されるスループリンティングの諸作について考えるとどうなるか。インクを投射(project)するノズル/像を構成・統御する断面(screen)/像が定着する(影が着地する)支持体 という3つの要素の条件が自在に変化する複雑な方程式によるこの作品について思いを巡らせていて、天動説と地動説ということに思いが至った。すなわち大西の生み出す影=スループリンティングによる作品(そのイメージ)が歪んでいるのか、それともイメージを受け止めるこの世界の方が歪んでいるのかは、決定不可能ではないかという考えに取りつかれてしまった。実体とその影を「見る」ときの視点を、私たちは必ずしもこの肉体の目に定める必要はないのである。


小林 公 Tadashi Kobayashi
兵庫県立美術館学芸員。
1976 年、神奈川県に生まれる。2004 年より現職。これまでに企画・担当した展覧会は「Oh!マツリ☆ゴト 昭和・平成のヒーロー&ピーポー」(2019)、「県美プレミアム Back to 1918: 10年ひとむかしと人は言う」(2018)、「アドルフ・ヴェルフリ展」(2016)、「美術の中のかたち―手で見る造形:横山裕一 これがそれだが ふれてみよ」(2014)、「ポンピドゥー・センター・コレクション フルーツ・オブ・パッション」(2014)、「レジェンド・オブ・メカデ ザイン 超・大河原邦男展」(2013)、「安井仲治の位置」 (2011)、「チャンネル 1 林勇気展:あること being/something (2011)、「美術の中のかたち―手で見る造形:山村幸則 手 ヂカラ 目ヂカラ 心のチカラ」(2007)、「安井仲治―僕はこんな美しいものを見た―」(2005)など。館外の企画では2013年に始まる「i want you あなたがほしい」(あまらぶアートラボA-Lab(尼崎、2018)、Weltkunstzimmer(デュッセルドルフ、2013)ほか)に参加。