About BAROm1
text by Yasushi Utsunomia 宇都宮泰
私が録音をはじめてそろそろ50年になります。その間に記録メディアはアナログからデジタルに、さらにコンピュータベースの編集システムへと変化しましたが、発展の多くはミステイクの修正や効率的な編集、同一のコピーが簡単に作れるといった、利便性や都合のよさ、集中力の否定のようなものばかりで、肝心な音の品位や音楽としての本質的な進歩とはあまり関係が無い部分で、実際に50年前と比べ、何が進化したのかは疑問の余地があると言わざるを得ない一面があります。使う道具としてのマイクロフォンも多くは50年前と設計はほとんど変わっていません。完成しているというよりも、サウンドそのものが本質的に進化していないので、その入り口であるマイクに新しさが要求されないのかもしれません。
テープアナログの時代には、30Hz以下の低音はテープに記録することも難しかった上に、スピーカーで再生することも容易ではなかったため、多くのマイクは極低い、真の低音について十分な能力を持っているとはいえなかったのですが、本来のデジタルではそれが可能になり、それに応えられるマイクがあってもよさそうなものなのですが、それが無いのです。そこで、気圧の変化(0Hz:真の低音)にも反応するようなマイクを作ってみたくなり、barometer-microphone・・略してBAROマイクの初号機=BAROm1と命名しました。
なぜ真の低音が重要なのかといえば、すべての音は基本波の上に倍音が重なって形成されるために、十分に低い音を捉えることが出来なければ、耳に聞こえる倍音も正確には保存されないということになるからです。BAROm1は市販のマイクカプセルを使いながら、独自のBAROm構造筐体により、0.1Hz以下まで捉えることができる設計になっています。その低音が記録できてもスピーカーから再生することはできないのですが、実際には空間の響きで分解能が低下するような状態であっても、分解能が高いままで保存再生が出来るようになります。その成果の証明が作品群ですが、インプロビゼーションと相性はよいのかもしれません。
(2023年2月)


I have been engaged in recording for almost 50 years now. During that time, recording media have evolved from analog to digital and then to computer-based editing systems, but most of these developments have been matters of convenience, expediency, and removal of the need for concentration, enabling correction of missteps, efficient editing, and easy production of identical copies, which have little to do with the essential progress in sound quality or music. In some ways, we need to ask ourselves what has actually evolved since 50 years ago. Microphones, as tools for recording, have changed little in terms of design over the past 50 years. Perhaps it is not so much that they have reached their perfect form, but rather that sound itself has essentially not evolved, so the microphones that are the gateway to the sound do not require an update.

During the analog tape era, bass below 30 Hz was difficult to record on tape and a challenge to play back on speakers, so not many microphones were capable of faithfully capturing ultra-low “true bass.” However, this ought to be possible with digital, and one would think there should be a microphone that could do it, but in fact there is not. That is why I wanted to make a microphone that could respond to changes in barometric pressure (at 0Hz, or true bass), and I named it BAROm1, shorthand for “the first barometer-microphone.”

Why is true bass, too low for the human ear to hear, important? Because all sound is formed by overtones superimposed on a fundamental wave, and if sufficiently low tones are not captured, the higher overtones that we actually hear will not be accurately recorded. The BAROm1 uses a commercially available microphone capsule, but is designed to capture sounds down to 0.1 Hz and below thanks to its unique BAROm structural housing. Even if ultra-low bass can be recorded, it cannot be played back through the speakers. However, it enables sound to be preserved and played back with high resolution, even if in practice the resolution is reduced by spatial echoes. Proof of this achievement is in the works recorded with this microphone, and at this stage I think we can say the microphone is quite optimal for improvisation.
(February 2023)




今、CDの出版であること
text by Yasushi Utsunomia 宇都宮泰
「Utsunomia MIX」トリプルリリース、.es saraさんのアナウンスにあるように、私は不思議な縁で関わることになり、タイトルにまでその名が入っていること、無上の喜びです。昨今の出版事情で言えば、アナログレコードや配信を考えるべきなのかもしれませんが、当初からどのような形態がこのライブ演奏の記録にふさわしいかは相応の検討があったことを書き留めておきたいと思います。
ノイズ・インプロビゼーションと呼ばれる音楽の出版は音楽分野の中でも、最も幅広い形式での出版があり、カセットテープやアナログレコードについても、今日の再発見的なブームになる以前からこの分野では根強く用いられていました。これはどのような形態で頒布するかということそのものが、表現として重視されているからで、ときにそれは記録された音内容よりも重視される傾向もあるためで、その意味では使えそうなメディアはすべて使い尽くされているとも言えそうです。あと使われていないのはエジソン蝋管くらいかもしれません。
今回私が行ったことは、録音そのものに対する新たな挑戦で、3枚のCDのうち2枚の録音では、マイクロフォンそのものが旧来のものとは異なる、私の考えるデジタル世代にふさわしい設計の新しい手作り機種を、録音の形式として、これまではやろうと思ってもできなかった「非同期マルチ録音」をCD3枚で採用しました。それらの詳細は別稿にゆずりますが、旧来のマイクや録音形式に比べると機動力にすぐれ、空間保存性が高く、何が起きるかわからないインプロビゼーション演奏に対しても高い耐性を持っているといえます。
.es saraさんから声をかけていただいたのは、奇しくもこれらの新しい手法がテスト段階に入ったちょうどそのときで、録音したいことを申し出たところ快諾いただけたという、偶然に偶然が重なったような背景があり、その成果の記録とも言えます。
この成果をどのような入れ物に入れるべきか、エジソン蝋管でもよいのですが、技術的にもっとも旬の、旧来と比較しやすく、保存安定性の優れたCDを選びました。ノマルは工房でもあるので、最高のデザインとつくりのジャケットをまとうはずです。
CDのポテンシャルは本来もっと優れているはずなのですが、アナログ時代のままのマイク設計やマイク製品を、アナログ時代に培われた録音や編集セオリーに従うという、旧来アナログの亡霊に取り付かれた環境で、不幸な発展を遂げているといえ ますが、今回私の提唱するマイクロフォン設計や録音手法、その不幸を押し戻せることを願い、これを制作しました。
(2023年2月)