04 Words of Art︱名付け得ないものに、名付ける
美術でも音楽でも他の表現でも、私はアーティストとの会話をとても大切に思っている。それはとても楽しいが、複雑な時間だ。言葉は、たとえ話したり文字にできなくても、物事を生み出す核であり、それがコンセプトに繋がると考えている。生まれる瞬間を探る、だからオフィスの中だけでなく外で会食したり何か他のことをする時間も大切なのだ。全く関係ないように思われる話の中にヒントがあることもある。大切な価値はわかりにくかったり、ふとしたところにある。価値が生まれることは名付けることだ。名付けることで、曖昧な中から手がかりが生まれる。
作品や演奏のテーマやコンセプトなどを話し合う時、最初から言い得ることは出来なくても、不意に出た一つの言葉が一つの考えとなり、たとえそれがまとまることはなくても少しずつ像を結んでいく。トライアルやスタディーという試作を繰り返す作業も、ひとつの会話だ。
話したり文字にできなくても、そのようにして生まれた言葉は、純度が高ければ高いほど作品を高めてくれるように感じる。しかし、作品自体が話し出すと苦しくなる。語り尽くすことが出来ないからこそ作品を創るのだから─作品が語ると、型にはまるのだ。
作品を世に出すということは、名付け得ないものに名付けをするようなもので、混沌の中から価値を見い出す作業でもある。そこから、始まる。
稲垣元則に寄せて評論家の加須屋明子氏に執筆いただいた文章にタルコフスキーの映画「ストーカー」を引用している部分がある。映画ではゾーンと呼ばれる得体の知れない場所を水先案内人がナットに紐をつけたものを投げてその行く先に向かって人々を案内する。道をそれてしまうと死ぬのだ。ナットは完全に思った所に投げることはできない。デタラメに投げてるわけでもない。ゾーンは混沌である。そこに一つひとつ道筋を付けていく。アーティストとの会話もそういうものだ。必ずしも行き先が見えているわけではない。(2019年 林聡)
04 Words of Art︱名付け得ないものに、名付ける