05 Everything on the Table︱創造の道
現代美術と前衛音楽のアーティストたち。創造を止めることができない彼らと共に生み出す、その豊かさに恵まれた30年間だったと思う。
アイデアを実現する道は多様である。しかも、新しい道を作り出すこともできる。
手法、素材、すべてにおいて自由で可能性に満ちている。逆に、手法、素材からアイデアが生まれてくることもある。
テーブルの上にあるものは、エブリシング。
最初は全てがゼロ。だからこそ、全てを生み出すことが出来る。
決して、出来ないことはない。
そう信じるようにしてきたし、立ち行かない様々な困難に際しても自分に言い聞かせるように努める。共に創るという姿勢でのギャラリーを運営していると、無い無い尽くしは常である。価値が定まっていないもの、誰かが価値や価格を決めていないものに興味がある。マーケットの事情も分かるが、そちらをちらりと見ながら、創る力をこそ持ち続けたい。
製版工程におけるコンピューティングは真っ先に取り組んだ。繊細なラインのイメージの版画作品を制作するために作った、オートマティックにランダムな線を描画するプログラムは中学生レベルの数学の応用だった。NGOの招きでスクリーン印刷の指導を行ったラオスでは、インクがなくて布用の染料とトウモロコシの粉を混ぜて代用した。また、ランダムドットによる立体視で動画を作るアイデアは、裸眼で3D空間を表現したいというアーティストの要望からひねり出された。3Dプリンターによる彫刻へのアプローチも今や当たり前だ。もしも方法が無ければそこから始めよう。全方向に開けよう。中学生の数学から最先端のテクノロジー、そして伝統的な技術、全てがテーブルの上にある。アーティストの素朴な発想を実現する力になるのが工房の役目だと思う。し、せっかくだから新しいものを創ろう。アーティストの無茶と工房の無茶が重なり合って無茶が実現していく。(2019年 林聡)
05 Everything on the Table︱創造の道